― 都心5区を中心とした価格調整局面の分析 ―
1.調査概要
本稿では、東京都23区における中古マンション市場の動向について分析を行う。分析対象期間は2023年1月から2026年2月までであり、マンションリサーチが収集した公開売出情報234,621件を用いて統計処理を実施した。対象は東京都23区内の中古マンション市場であり、売出価格、値下げ率、販売期間、値下げ回数等の指標を基に市場動向を検証するものである。
近年の東京都中古マンション市場は、低金利環境や都心回帰需要、インフレヘッジ需要などを背景として価格上昇基調が継続してきた。しかしながら、2026年第1四半期においては、市場内部における需給構造の変化が徐々に顕在化し始めている。特に、価格上昇を牽引してきた都心5区において、価格調整圧力や流動性低下の兆候が確認されており、市場全体が新たな転換局面へ移行しつつある可能性が示唆される。
2.2026年第1四半期の市場概況

2026年第1四半期の中古マンション市場を概観すると、東京都23区全体では依然として安定的な推移が維持されている。一方で、エリア別に詳細を確認すると、都心部と周辺部との間で市場環境に顕著な差異が生じ始めている。
特に都心5区では、価格調整の動きが鮮明となっている。2025年10月から12月における都心5区の中古マンション値下げ率は5.77%であったが、2026年1月から3月には6.24%まで上昇した。この数値は2023年以降で最も高い水準であり、単なる一時的変動ではなく、構造的な価格修正圧力が強まっていることを示唆している。
さらに注目すべき点として、都心5区の値下げ率は2024年7月から9月以降、継続的に上昇傾向を示していることが挙げられる。従来は高い需要によって価格上昇を維持してきたエリアであるが、現在は売主側が当初価格を維持できず、価格修正を余儀なくされる事例が増加している。このことは、需給バランスに変化が生じていることを意味している。
3.都心5区における流動性低下

価格調整と並行して、都心5区では市場流動性の低下も確認されている。販売期間および値下げ回数はいずれも増加傾向にあり、単に価格を下げれば成約に至るという従来の市場構造が変化していることが分かる。
これまでの上昇局面においては、高額物件であっても比較的短期間で成約に至るケースが多く見られた。しかし、2026年第1四半期においては、価格調整後も成約までに時間を要する事例が増加している。この状況は、買主側の選別姿勢が強まっていることを示している。
特に現在の購入検討者は、価格のみならず、立地条件、築年数、専有面積、ブランド力、管理状態など、多面的な要素を総合的に評価していると考えられる。すなわち、高価格帯市場においては、「高額であれば売れる」という局面から、「価格に見合った付加価値が求められる」局面へ移行しているのである。
また、金利上昇懸念や景気減速リスク、将来的な不動産価格の不透明感なども、購入判断を慎重化させる要因となっている可能性が高い。これにより、売主側の期待価格と買主側の許容価格との間に乖離が生じ、市場調整が進行しているものと考えられる。
4.23区全体における安定性

一方で、東京都23区全体で見ると、市場は依然として一定の安定性を維持している。2026年1月から3月における中古マンション値下げ率は5.53%であり、前四半期比では微増にとどまった。販売期間および値下げ回数についても大きな変化は確認されておらず、市場全体として急激な需給悪化が発生しているわけではない。
この点は極めて重要である。すなわち、現在観測されている市場調整は、東京都23区全域に広がる全面的な下落局面ではなく、主として都心5区を中心とした高価格帯市場に限定された現象である可能性が高い。
実需層を中心とした中価格帯市場では、依然として住宅取得需要が底堅く存在している。特に交通利便性が高く、生活インフラが整備されたエリアにおいては、安定した需要が継続していると考えられる。そのため、23区全体としては市場流動性が維持されており、急激な価格崩壊の兆候は確認されていない。
5.2023年以降に進行した市場の二極化
現在の市場構造を理解するためには、2023年以降に進行した市場の二極化を整理する必要がある。
特に象徴的であったのは、2023年7月から2024年7月にかけて、成約坪単価が新規売出坪単価を上回るという異例の現象が継続したことである。本来、不動産市場においては、売出価格が成約価格を上回ることが一般的である。しかし、この期間においては、高価格帯物件を中心に成約価格が強含みで推移し、市場全体に過熱感が生じていた。
この背景には、富裕層需要、海外投資資金の流入、インフレ回避目的の不動産取得など、投資的需要の拡大が存在していたと考えられる。しかしながら、こうした需給構造は長期的に持続可能なものではなく、価格形成に歪みを生じさせる結果となった。
その結果、市場は「実需に支えられた価格帯」と「期待先行で上昇した高価格帯」に分断される構造となった。現在都心5区で確認されている価格調整は、この高価格帯市場における反動局面として理解することができる。
6.今後の市場見通し
以上の分析を踏まえると、2026年第1四半期の中古マンション市場は、「全面的な下落局面」ではなく、「市場内部の選別が進行する調整局面」にあると整理できる。
特に都心5区では、これまでの急激な価格上昇に対する反動が顕在化しており、短期的には軟調な推移が続く可能性が高い。今後は価格修正のみならず、販売期間の長期化や成約率低下など、流動性面での調整も進行すると考えられる。
一方で、東京都23区全体では、実需に支えられた市場基盤が依然として維持されている。そのため、現時点において市場全体が急激な下落局面へ移行する可能性は限定的であると考えられる。
今後の市場分析においては、「都心は常に強い」という従来型の単純な理解ではなく、エリア特性、価格帯、購入主体、需給構造などを細分化した分析が不可欠となる。特に、高価格帯市場においては、価格上昇期待のみを前提とした投資行動が成立しにくい局面へ移行している点に留意する必要がある。
現在の市場は、次なる成長局面へ向けた調整フェーズに位置していると考えられる。その中で、持続的な実需を獲得できるエリアおよび価格帯が、今後の市場を主導していくことになるであろう。