目次

今、港区で選ぶべきマンションとは?

目次

―在庫データから見た「価値が残るマンション」の条件―

要旨

本稿では、東京都港区における中古マンション市場について、2020年1月から2026年6月までの公開売出情報28,780事例をもとに、築年、マンション規模、物件特性別の在庫動向を分析し、現在の港区市場において資産価値および流動性が維持されやすいマンションの条件について考察する。

近年の港区中古マンション市場では、築浅かつ大規模なマンションを中心として在庫が増加している。一方、旧耐震を含む築古マンションでは在庫が減少または安定しており、必ずしも「築年が新しいほど売れやすい」という単純な関係は成立していない。

特に2006年以降に竣工したタワーマンションでは約46%、タワーマンションを除く100戸以上の大規模マンションでも約36%が在庫増加傾向を示している。これに対して、1983~2000年築のマンションでは在庫の増加が比較的緩やかであり、市場の流動性が相対的に維持されている。

これらの結果から、現在の港区において重要なのは「新しいマンションを選ぶこと」ではなく、立地、価格、築年、供給量、品質、実需層の厚みなどを総合的に評価し、実際の需要に対して価格が過度に乖離していない物件を選択することであると考えられる。

キーワード: 港区、中古マンション、在庫、流動性、築年、タワーマンション、資産価値


1.はじめに

東京都港区は、国内でも屈指の住宅地として知られている。六本木、麻布、青山、赤坂、白金、高輪などの著名な住宅地を抱え、都心立地、交通利便性、生活利便性、ブランドイメージのいずれにおいても高い評価を受けている。

また、近年は大規模再開発の進展や都心居住需要の高まりを背景として、港区のマンション価格は大幅に上昇してきた。特にタワーマンションや大規模マンションなどは、国内富裕層だけでなく海外投資家からも注目を集め、港区を代表する資産として評価されてきた。

しかし、マンション価格が上昇を続ける一方で、すべての物件が同じように市場から評価され続けるとは限らない。価格が上昇するほど購入可能な世帯は限定され、実需層が購入できる価格帯から乖離すれば、売出物件が市場に滞留する可能性が高まる。

そこで本稿では、単純な成約価格や平均価格ではなく、「市場にどれだけ売出物件が残っているのか」という在庫の動向に着目する。在庫は、売主と買主の価格認識が一致しているか、あるいは市場において当該物件の価格が受け入れられているかを考える上で重要な指標である。


2.調査方法

本調査では、マンションリサーチ株式会社が収集した東京都港区の中古マンション売出情報を対象とした。

調査期間は2020年1月から2026年6月までであり、対象は港区内の中古マンション、サンプル事例数は28,780事例である。公開されている売出情報を収集し、築年、マンション規模、物件特性などの観点から統計処理を行い、在庫の推移を分析した。

本稿では、特に①築年による在庫動向の違い、②タワーマンションおよび大規模マンションの在庫動向、③築古マンションの流動性、④建築工事費とマンション供給環境の関係、の4点に着目する。

なお、本調査における「在庫」は公開されている売出情報に基づくものであり、実際の所有者数や非公開取引を直接示すものではない。そのため、在庫動向は市場の流動性を把握する一つの指標として解釈する必要がある。


3.港区では築浅マンションの在庫が増加している

港区の中古マンション市場を築年別に分析すると、2024年7月以降、築年の新しいマンションを中心として在庫が急激に増加していることが確認できる。

ここで重要なのは、「港区全体のマンションが一律に売れにくくなっている」という状況ではない点である。在庫増加は特定の築年帯および物件特性に集中しており、市場内部で明確な二極化が進んでいる。

特に目立つのが、タワーマンションおよび大規模マンションである。2006年以降に竣工したタワーマンションでは、約46%が在庫増加傾向を示している。また、タワーマンションを除く100戸以上の大規模マンションにおいても、約36%が在庫増加傾向となっている。

この結果は、単純に「人気の高いマンションほど売れやすい」という従来のイメージとは異なる市場構造を示している。

大規模マンションやタワーマンションは、一戸当たりの価格が高額になりやすい。さらに、同一マンション内に多数の住戸が存在するため、売却希望者が増えれば、同じマンション内で売り物件同士が競合する可能性もある。

つまり、物件そのものの人気が高くても、価格水準が実需層の購買能力を超えれば、売却期間が長期化し、在庫として市場に残る可能性があるのである。


4.築古マンションでは異なる市場構造が形成されている

一方、築年の古いマンションを見ると、築浅物件とは異なる動きが確認される。

旧耐震基準のマンションでは、2023年以降に在庫が減少し、その後も比較的低い水準で推移している。一般的には、築年数が古いマンションほど市場で敬遠され、流動性が低下すると考えられがちである。しかし、港区においては必ずしもそのような状況にはなっていない。

その理由の一つとして考えられるのが、価格と立地のバランスである。

港区に居住したいと考える購入者にとって、築浅タワーマンションや大規模マンションの価格は容易に手が届く水準ではない。一方、築古マンションであれば、同じ港区という立地を享受しながら、比較的低い価格で購入できる。

つまり、築古マンションは「古いから売れない」のではなく、「古いことによって価格が抑えられ、その価格が需要を生み出している」と考えることができる。

この点は、現在の港区市場を理解する上で非常に重要である。

マンションの資産価値を考える際、築年数だけを見て判断することには限界がある。重要なのは、その価格で購入したいと考える需要層がどれだけ存在するかである。


5.港区の価格調整は市場全体ではなく物件ごとに進んでいる

以上の結果を総合すると、現在の港区中古マンション市場で進んでいる価格調整は、港区全体に一律に波及しているものではないと考えられる。

調整の中心となっているのは、比較的築浅であり、価格帯が高く、かつタワーマンションや大規模マンションといったブランド性の高い物件である。

これらのマンションは、再開発、ブランドイメージ、希少性などを背景として価格が大きく上昇してきた。その価格形成には実需だけではなく、資産保有を目的とする需要や投資需要など、複数の要因が作用してきたと考えられる。

しかし、価格上昇が続けば、最終的には「その価格で実際に購入できる人」が減少する。

不動産は金融資産とは異なり、実際に居住するという利用価値を持つ。そのため、価格が利用価値や購入者の所得水準から大きく乖離すれば、需要が細り、売却時の流動性が低下する。

現在の港区市場で見られる在庫増加は、この価格と需要の乖離が一部の物件で顕在化している可能性を示している。

したがって、「港区のマンションは値下がりする」という単純な議論ではなく、「どの価格帯、どの築年、どの規模のマンションで在庫が増えているのか」を分析する必要がある。


6.1983~2000年築マンションに見る「価格と価値」の均衡

特に注目すべきなのが、1983~2000年築のマンションである。

この年代のマンションでは在庫が一定程度増加しているものの、その増加ペースは比較的緩やかである。2006年以降築の築浅マンションと比較しても、在庫水準は低く、市場の急激な変化は確認されない。

この年代のマンションは、港区という高いブランド性を持つ立地を享受しながら、築浅マンションほど価格が上昇していないケースが多い。そのため、実際に居住することを目的とした購入者にとって選択肢となりやすい。

また、価格水準が一定程度抑えられていることから、購入可能層が築浅高額物件よりも広くなる。この「購入可能な需要層の厚さ」が、流動性の維持につながっている可能性がある。

不動産の資産価値を考える場合、単純な築年数ではなく、「購入価格に対してどれだけの需要が存在するか」を見ることが重要である。


7.建築コストから考える「価値の残る築年」

さらに、マンションの価値を考える上では、建築された時代の供給環境にも注目する必要がある。

現在は建築資材価格の上昇、人件費の上昇、建設業界における人手不足などを背景として、建築工事費が非常に高い水準にある。

一方、2000~2006年頃には、現在と比較して建築工事費が低い水準にありながら、新築マンションの供給戸数は多かった。

供給量が多い時代には、デベロッパー間の競争も激しくなる。競争環境の中では、立地だけでなく、設備仕様、間取り、共用施設、デザイン、管理計画など、商品そのものの品質による差別化が必要となる。

その結果、2000~2006年頃には、現在でも市場で評価されるマンションが数多く供給された可能性がある。

反対に、現在のように建築コストが高騰している局面では、販売価格を抑えるために専有面積を小さくしたり、設備仕様を調整したりするなど、コストと商品価値のバランスを取る必要が生じる。

したがって、「築浅=高品質」という評価は、今後必ずしも成立しなくなる可能性がある。


8.現在の港区で「価値が残るマンション」の条件

以上の分析から、現在の港区でマンションを選択する際には、少なくとも以下の条件を重視する必要がある。

第一に、価格と実需のバランスが取れていることである。どれほどブランド性が高い物件でも、購入可能層が極端に限定されれば、売却時の流動性が低下する。

第二に、供給過多になっていないことである。同一エリアに大規模マンションが集中し、さらに同一マンション内で多数の住戸が売りに出される状況では、売却時の競争が激しくなる。

第三に、築年数だけでは説明できない品質を持っていることである。施工品質、管理状態、修繕計画、共用部、間取り、立地など、長期的に需要を維持できる要素を確認する必要がある。

第四に、購入者層が限定されすぎていないことである。投資家や超富裕層だけでなく、実際に居住を希望する層にも購入可能な価格帯であることが、長期的な流動性を支える。

第五に、港区という立地そのものの価値を享受できることである。マンション価格が上昇する局面では建物そのもののブランドが注目されやすいが、長期的な資産価値を考えれば、交通利便性、生活利便性、周辺環境などの立地価値が重要である。


9.結論

本稿では、港区の中古マンション市場について、2020年1月から2026年6月までの28,780事例を対象とした在庫データをもとに、市場構造の変化を分析した。

その結果、現在の港区市場では、築浅・タワー・大規模といった一般的に人気が高いと考えられるマンションほど、必ずしも流動性が高いとは限らないことが明らかになった。

特に2006年以降築のタワーマンションでは約46%、100戸以上の大規模マンションでは約36%が在庫増加傾向を示している。一方、築古マンションでは在庫が減少または安定しており、価格と需要のバランスが取れた物件には一定の流動性が維持されている。

このことから、今後の港区マンション市場では「港区だから価値がある」「築浅だから価値がある」「タワーマンションだから価値がある」という単純な評価方法では不十分である。

重要なのは、そのマンションが現在の価格に見合った需要を持っているかという点である。

マンション価格が上昇した局面では、価格そのものが資産価値であるかのように認識されやすい。しかし、市場が変化した際に最後まで残る価値は、実際に購入したいと考える人が存在するかどうかによって決まる。

したがって、現在の港区でマンションを選ぶ際には、単純な「築浅」「タワー」「ブランド」といった表面的な指標ではなく、立地、価格、築年、供給量、建築品質、管理状態、そして実需層の厚みを総合的に評価する必要がある

今後、金利や建築コスト、所得環境、投資資金の動向などが変化すれば、港区のマンション市場における評価軸もさらに変化する可能性がある。その意味で、現在の在庫データは、港区市場が一律に崩れていることを示すものではなく、むしろ「物件による選別が始まっている」ことを示唆するデータと位置付けるべきである。

**今後の港区マンション市場で重要となるのは、「どのマンションが高いか」ではなく、「どのマンションなら、その価格でも買いたい人が残るのか」という視点である。**これこそが、将来の資産価値と流動性を考える上で、最も重要な判断基準の一つになると考えられる。

その他のレポート

サムネイル
「管理組合収支」が老朽化マンションの未来を分ける
サムネイル
首都圏中古マンション価格は本当に下落局面なのか
サムネイル
墨田区が映し出す東京都中古マンション市場の将来像
サムネイル
都心高騰が生んだ需要移転―主役となった城東エリア(足立区・葛飾区・江戸川区)
サムネイル
大阪市都心部のマンション価格は高騰しすぎたのか
サムネイル
政策金利1%時代における東京都中古マンション市場の流動性変化に関する考察