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東京都心部で進む新築マンションの短期転売化―投機的取得がもたらす価格高騰と市場構造のゆがみ

 

投機的転売が活発化する東京都心部の新築マンション市場

 
近年、東京都心部の新築マンション市場では、投資家や富裕層、さらには転売業者による短期転売志向の強まりが一段と顕著になっています。特に、2023年以降は新築マンションの短期転売が急増しており、都心の住宅価格動向に直接的な影響を及ぼしています。

こうした転売行為が否定的に捉えられる背景には、単に一部の物件価格が上昇するという局所的な現象に留まらず、その価格上昇が周辺の中古マンション市場に波及し、地域全体の価格水準を押し上げる構造的な影響があることが挙げられます。結果として、高所得層以外の住宅購入者にとって、都心居住や都内でのマンション取得のハードルを一層高める要因となっています。
 

千代田区が導入する「5年間転売禁止」要請の狙い

 

こうした状況を受け、千代田区の新築マンションでは「原則として購入後5年間の転売禁止」を不動産協会に要請しています。この要請は、短期的な投機目的の購入を抑制する効果が期待されるものであり、一定の抑止力を発揮すると考えられます。

実際、購入者が転売を容易に行えない環境を整えることで、地域の価格安定や市場の健全性維持に寄与することが可能です。短期転売を制限することは、単なる物件個別の価格調整にとどまらず、周辺地域への価格波及を抑制するという点でも有効であると考えられます。
 

港区・中央区で進む短期転売の拡大

 

グラフ1:港区・中央区新築マンション短期転売の割合
 

出典:福嶋総研
 

一方で、港区や中央区に目を向けると、2024年から2025年にかけて新築マンションの短期転売が急増していることが確認されています。特に港区は、世帯増加率の観点では23区内でも非常に低い水準にとどまっているにもかかわらず、マンション価格の上昇率は中央区に次いで東京都23区内で第2位を記録しています。

これは、人口や世帯数の増加といった実需の側面だけでは説明できない現象であり、投機的な取得が市場を牽引している可能性が高いことを示唆しています。つまり港区では、居住を目的としない購入、すなわち資産形成や投資を目的とした取得が他地域よりも活発に行われている状況が浮き彫りになっているのです。
 

都心価格の高騰が生む「居住困難化」

 

短期転売や投機的取得の増加がもたらす大きな問題は、特定の物件価格の上昇にとどまらず、その高騰が周辺地域へ波及する点にあります。多くの国内住宅購入層は給与所得を主な収入源としており、住宅購入のための予算には明確な上限があります。そのため、都心部におけるマンション価格の高騰は、広範な世帯にとって購入ハードルを大きく押し上げる結果となっています。

例えば、東京都23区内で70㎡前後の築浅マンションを購入する場合でも、1億円近い資金が必要です。さらに都心部であれば、50㎡程度の物件でも1億円を超えることは珍しくありません。このような価格水準は、中所得層やファミリー層にとって経済的な制約を生み、都心居住の実現を難しくしています。
 

市場の安定性と地域社会への影響

 

投機的購入の増加は、市場の安定性という観点からも問題を孕んでいます。短期転売が活発になると、供給過剰や価格変動リスクが高まり、購入者にとって計画的な資産形成が難しくなる可能性があります。

特に港区や中央区のような人気エリアでは、投資目的での取得が増えるほど、居住を目的とした実需の購入機会が制限され、地域コミュニティの形成や安定した居住環境の維持にも影響を及ぼしかねません。こうした観点からも、契約上の転売禁止期間の設定や購入者の居住義務の明確化は、短期転売抑制のために重要な施策といえます。
 

健全な市場形成に向けた今後の課題

 

以上を総合すると、東京都心部の新築マンション市場は、投機的取得や短期転売による価格高騰とその波及という構造的課題に直面していることが明らかです。港区や中央区のデータは、投機的取得が価格形成に及ぼす影響を如実に示しており、今後の市場動向を予測する上で重要な指標となります。

都心居住を希望する中所得層にとって住宅取得のハードルがますます高まる現状を踏まえれば、短期転売抑制策の導入や中古物件市場の活用など、現実的かつ柔軟な対応が求められます。特に、契約上の特約や行政・業界の情報提供、規制強化は、健全な住宅市場の形成と、幅広い層がアクセス可能な住環境の維持に欠かせない施策です。

 
 

筆者プロフィール

福嶋 真司(ふくしましんじ)

マンションリサーチ株式会社

データ事業開発室

不動産データ分析責任者

福嶋総研

代表研究員

早稲田大学理工学部経営システム工学科卒。大手不動産会社にてマーケティング調査を担当後、

建築設計事務所にて法務・労務を担当。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査・評価指標の研究・開発等を行う一方で、顧客企業の不動産事業における意思決定等のサポートを行う。

福嶋総研発信リンク集

https://lit.link/fukushimasouken

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