金利上昇局面における湾岸エリア中古マンション市場の需給変化

販売日数および値下げ回数を用いた実証的分析

目次

1. 研究背景と目的

日本銀行は2024年12月19日の金融政策決定会合において、政策金利を0.50%から0.75%へ引き上げた。これは1995年以来、約30年ぶりの高水準であり、日本経済が本格的に「金利のある環境」へ移行したことを示す重要な転換点である。長期間にわたり超低金利環境に支えられてきた日本の不動産市場、とりわけ高価格帯物件が集中する東京都心部および湾岸エリアにおいては、この金利上昇が住宅需要に与える影響を検証する必要性が高まっている。

本研究の目的は、東京都湾岸エリアの中古マンション市場を対象として、金利上昇局面における需給構造の変化を、「販売日数」および「値下げ回数」という市場指標を用いて実証的に分析することである。

2. 分析指標とその意義

本稿では、市場需給の把握にあたり、「販売日数」と「値下げ回数」の2指標を用いる。販売日数とは、物件が市場に公開されてから成約に至るまでの期間を指し、この期間が短いほど購入需要が強く、取引が円滑に成立している状態を示す。一方、販売日数の長期化は、需要の減退または物件の競争力低下を示唆する指標と解釈される。

値下げ回数は、売主が当初提示した価格から何度価格調整を行ったかを示すものであり、値下げ回数が少ない市場は売主優位の需給環境にあると考えられる。逆に値下げ回数の増加は、売主が購入者側の条件に歩み寄らざるを得ない状況を示すものである。両指標を組み合わせて分析することにより、市場の実需の強さと売主心理を多面的に把握することが可能となる。

3. 湾岸エリア全体における需給動向の変化

湾岸エリア全体の動向を見ると、販売日数および値下げ回数はいずれも2024年9月を底として、その後明確に上昇傾向へ転じている。すなわち、2024年9月までは購入需要が極めて強く、売主が価格調整を行う必要性が低い売り手優位の市場環境が継続していたと解釈される。

しかし、2024年10月以降は販売日数の延伸と値下げ回数の増加が同時に観察され、購入需要の減速と売主心理の軟化が並行して進行している状況が確認される。これらの変化は、単なる季節変動による一時的現象ではなく、市場構造そのものの転換を反映している可能性が高い。

4. エリア別に見た需給変化の異質性

湾岸エリアを細分化すると、「月島・晴海・勝どき」エリアと「有明・豊洲・東雲」エリアの間で需給変化の程度に明確な差異が認められる。特に前者においては、販売日数の伸長および値下げ回数の増加が顕著であり、需給の変調がより強く表出している。

このエリアは近年タワーマンション供給が集中し、価格水準も急激に上昇してきた地域である。そのため、金利上昇という外生的ショックが購入検討層の心理に直接的かつ即時的に影響を及ぼしやすい構造を有していると考えられる。

一方、「有明・豊洲・東雲」エリアにおいても同様の傾向は確認されるものの、その変化は相対的に緩やかである。この差異は、価格水準、物件構成、居住ニーズの違いなどが金利上昇耐性の差として反映された結果である可能性がある。

5. 金利政策転換と市場指標の連動性

注目すべき点は、需給指標の転換点である2024年9月が、日本銀行による政策金利の引き上げおよび「金利のある環境」への移行が社会的に認識され始めた時期と一致している点である。実際、変動型住宅ローン金利は2024年7月以前には平均して0.4%台後半で推移していたが、2025年12月時点では0.8%台後半まで上昇している。

政策金利の引き上げが金融機関の貸出金利を通じて住宅ローン金利へと波及し、住宅取得における資金調達環境が確実に引き締まりつつあることは否定できない。今後、政策金利がさらに引き上げられる場合、住宅ローン金利も一段と上昇し、購入者の資金負担はさらに増大することが予想される。

6. 価格上昇と家計負担の拡大

湾岸エリア、特に「月島・晴海・勝どき」エリアは、東京都内でも顕著な価格上昇を経験してきた地域である。物件価格の上昇に加え、金利上昇による月々の返済額増加が重なることで、居住目的の新規購入者にとっての家計負担は一層拡大している。

これまで超低金利環境下で成立していた価格帯が、金利上昇局面においては現実的な選択肢でなくなる事例も増加すると考えられる。その結果、購入を先送りする層や、より価格水準の低いエリアへ需要がシフトする動きが徐々に顕在化する可能性が高い。

7. 結論と今後の展望

現時点において、湾岸エリアの中古マンション市場が急激な価格調整局面に突入している兆候は確認されない。しかし、販売日数の延伸および値下げ回数の増加という複数の市場指標は、需給関係がピークアウトしつつあることを示唆している。

今後は金利動向を注視しつつ、エリア間および物件属性間の二極化がさらに進行する局面に入ると考えられる。湾岸エリアにおいても、「どの物件でも売れる市場」から「選別が進む市場」への移行が進行しており、購入者・売主双方に対して、従来以上に合理的かつ冷静な意思決定が求められる局面にあると結論付けられる。

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