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山手線内側で中古マンション在庫増加。在庫が示す「都心離れ」と需要シフトの始まり
・調査期間:2024年1月~2026年3月
・調査機関:株式会社マンションリサーチ
・調査対象:東京都23区内の中古マンション
・サンプル事例数:182,367事例
・調査方法:公開されている中古マンションの売出情報を収集し、統計処理を施して集計しました。
中古マンション市場において、「在庫」の動きは非常に重要な指標です。成約価格や価格上昇率に注目が集まりやすい一方で、実際には市場にどれだけの物件が滞留しているのか、あるいはどのような物件が売れ残り始めているかを見ることで、需要サイドの変化をよりリアルに把握することができます。
特に近年の首都圏中古マンション市場では、価格だけでは見えにくい“需要の質的変化”が在庫データに表れ始めています。
東京都の中古マンション市場を見ると、ここにきて明確な変化が見られるようになっています。
これまで東京都心部では、価格が上昇しても需要が衰えず、特に湾岸エリアや大規模タワーマンションを中心に高値取引が継続してきました。しかし足元では、高額帯マンションの売出件数が急増しており、それに伴って市場在庫も大きく積み上がり始めています。
特に特徴的なのが、大規模タワーマンションにおける転売住戸の増加です。これまでの相場上昇局面では、「買えば値上がりする」という期待感から、投資・投機目的の取得も一定数存在していました。しかし価格上昇が一定水準を超えたことで、利益確定売りや出口戦略を意識した売却が増加し、市場への供給量が急増しています。
本来、供給が増えても需要がそれ以上に強ければ在庫は増えません。しかし現在の東京都では、供給増加に対して需要が追いついておらず、結果として在庫が急増しています。つまり、「売りたい人」に対して「買いたい人」が相対的に減少している状態であり、これまでのような売り手優位のマーケットから徐々に変化し始めていることが分かります。
さらに注目すべきなのは、現在在庫として滞留し始めている物件の「中身」です。

足元で流動性の低下が見られるのは、主に築年数の浅い高額物件や、専有面積の広い住戸です。これらの物件はもともと坪単価が高く、総額も大きくなりやすい特徴があります。特に東京都心部では、ここ数年にわたり中古マンション価格が急激に上昇してきたことで、従来の実需層が購入可能だった価格帯を大きく超え始めています。
かつては「築浅」「広い」「都心立地」という条件を備えた物件は、価格が高くても比較的スムーズに成約していました。しかし現在は、住宅ローン金利の上昇や生活コスト増加の影響もあり、実需層の購入余力には徐々に限界が見え始めています。その結果、市場では「高価格帯物件ほど売却期間が長期化しやすい」という傾向が鮮明になってきました。
これは単純に人気が低下したというよりも、「価格上昇のスピードが実需の許容範囲を超え始めた」と捉える方が自然でしょう。特に総額1.5億円〜2億円を超えるレンジでは、購入対象者が大きく限定されるため、需給バランスの変化が在庫増加という形で表れやすくなっています。
また、以下の地図では、シンボリックな高価格帯マンション(平均価格8,000万円以上)の在庫推移を可視化しています。
赤プロット:在庫減少傾向(流動性が高い)
黄プロット:在庫横ばい(流動性は標準的)
青プロット:在庫増加傾向(流動性が低下)れている」とは必ずしも言えず、在庫推移を見ることで初めて市場の実態が見えてきます。

地図を見ると、特に高価格帯物件が集中する山手線内側や湾岸エリアにおいて、在庫増加傾向を示す青プロットが目立っています。これは、これまで市場を牽引してきた都心・湾岸のタワーマンション群において、価格上昇に対して需要が追いつきにくくなっていることを示唆しています。
一方で、都心周辺部のような、都心と比較して価格水準が相対的に抑えられているエリアでは、在庫が一定数で安定推移しているマンションも多く見られます。これは、購入予算を重視する実需層が、「都心一等地」から「都心アクセス可能な周辺住宅エリア」へと流れ始めている可能性を示しています。
つまり現在の中古マンション市場では、「どのエリアでも一律に鈍化している」のではなく、「価格が上がりすぎたエリア」と、「実需が支えられる価格帯に収まっているエリア」で、流動性に明確な差が生まれ始めている局面に入っていると言えるでしょう。
一方で、埼玉県・千葉県・神奈川県の中古マンション市場を見ると、東京都とは対照的な動きが見られます。

これらのエリアでは供給量自体は大きく増加していないにもかかわらず、市場在庫はむしろ減少傾向にあります。つまり、供給された物件が順調に市場で消化されている状態です。
また、在庫化している物件の築年数や面積帯にも大きな変化は見られません。東京都のように「高額な築浅大型住戸だけが残る」という偏りが比較的小さく、幅広い価格帯で安定的に需要が存在していることが分かります。
これは実需層を中心とした堅調な住宅需要が維持されていることを示しています。

この背景として考えられるのが、人口移動の変化です。
実際に人の動きが大きくなる3月(2026年前年同月比)の埼玉県、千葉県、神奈川県は転入者の数は増えているにも関わらず、東京は転入者が減少している一方で、転出者が増加しています。また転入超過率は埼玉県、千葉県、神奈川県いずれもプラスであり埼玉県に関しては、前年同月比で約30%増となっています。これはコロナ禍以降の観測で初めてです。

東京都においては約9%減でこれもコロナ禍以降の観測で初めてです。
2026年3月の集計では東京都では、特に「出ていく人」の増加が著しく、これは非常に重要な変化です。
これまで東京都心部の不動産価格を支えてきたのは、継続的な人口流入と高い住宅需要でした。しかしその前提条件に変化が生じ始めている可能性があります。
その大きな要因の一つとして考えられるのが、東京都の中古マンション価格の急騰です。
価格上昇によって住宅取得のハードルが大幅に高まり、これまで東京都内で購入を検討していた実需層が、より価格負担の小さい埼玉県・千葉県・神奈川県へ流れている可能性があります。
特に近年は、リモートワークの普及や働き方の多様化によって、「都心に住む必要性」が以前ほど絶対的ではなくなっています。その結果、居住空間の広さや生活コストのバランスを重視し、周辺県を選択する動きが強まっていると考えられます。
中古マンション市場は、価格だけを見ると依然として高値圏にあります。しかし在庫の積み上がり方や人口移動の変化を重ね合わせて見ると、市場内部ではすでに需要構造の変化が始まっている可能性があります。
今後の東京都中古マンション市場を考える上では、「価格が上がっているか」だけではなく、「誰が買えているのか」「どの価格帯が売れ残り始めているのか」を見ることが、これまで以上に重要になっていくでしょう。
筆者プロフィール

福嶋 真司(ふくしましんじ)
マンションリサーチ株式会社
データ事業開発室
不動産データ分析責任者
福嶋総研
代表研究員
早稲田大学理工学部経営システム工学科卒。大手不動産会社にてマーケティング調査を担当後、
建築設計事務所にて法務・労務を担当。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査・評価指標の研究・開発等を行う一方で、顧客企業の不動産事業における意思決定等のサポートを行う。
福嶋総研 公式WEBサイト
https://mansionresearch.co.jp/fri/
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